午前中、澁谷さんは悦子さんに逢いに高円寺に行くというので去る。何となく工藤さんと二人取り残されたような寂しい感じになって、何となく朝酒が始まる。冷カレーを肴に鬼殺しで食パン一斤ぺろりと平らげたり、鮎の天女煮の頭を食いちぎったり(朝酒や鮎の頭を食いちぎり)して異常に盛り上がる。「何か澁谷君だけ人と会ったりして一番有意義に過ごしてますよね」「そうですねー、僕ら一体何やってるんでしょうねー」「美術館とかも行きたい気持ちはあるんですけど、一人じゃ行けないんですよ。新聞は読めるんですけど」「嗚呼、不毛過ぎる」「でもこういうのも村八分みたいで格好いいよね、とりあえず朝から酒飲んでから演奏とか」。。。でもやっぱりこんなていたらくじゃいかんということになり、奥多摩行って句会とか神代植物園で薔薇見るとかいろいろアイデアが出るが、結局松濤美術館河井寛次郎の焼き物でも観に行こうかということになる。完全酒気帯び運転で彷徨うが、美術館は見つからず、結局モダ〜ン・ミュージックへ。改装後のモダ〜ンはマンションの入口でチャイムを鳴らしてインターフォン越しに「すみませーんレコード買いたいんですけどー」と言わないと中に入れなくなっていて驚く。再発のRayneや廃盤のKalen Daltonを見つけてつい買ってしまうが、ドアーズのLAウーマンを置いていないことが判明し、これでは時代に取り残されるであろう、という結論に達する。UFOクラブ前で澁谷さんを拾ったりしながら工藤さんが「人に動かしてもらわないと動けない人」のパフォーマンスを披露したりしながら捨ててあった可愛い行李を拾ったりしながら永福町で植野さんとキヨミさんを拾ったりしながら中目黒楽屋へ。植野さんが借りてきたプロ仕様のヴィデオカメラにキャッキャと群がっていた植野・澁谷・関の猿3兄弟が何故か前座をやることになり慌てふためく。植野さんのブルージーなギターに澁谷さん・僕のピアノ連弾という謎の演奏がやっと終わり、いよいよ真打ち、さやさんのアコギ弾き語り。さやさんの歌は暖かな光のシャワーのように観客の頭の上に降り注がれた。「あやうく泣きそうになりました」と、隣で見ていた澁谷さんがぽつりと言ったが、それは僕としても同じことだった。次は工藤さんのピアノソロ。風景を用意しない場所からその場で考え出した即興をやるとのことだったが、前半はその通り非常に抽象的かつきしんだような演奏。後半は一年を振り返るというテーマに切り替えて「九四国フェリー」などを織り交ぜてドラマチックに幕を降ろす。大谷さんとスパイス談義をしながら澁谷さんとユニファイ談義をしながら石鍋あんかけチャーハンを3人で分け合う。その後は、さやさんの写真を見ながらの寂しげな陽だまりのような即興ピアノ、デュオのヤバすぎる"unify my heart"、工藤さんの瓦解したような格好いい"round about midnight"と、もうお腹一杯。物販で彦坂さんとの初の対面に喜ぶ。ういろう。子ざるラーメン。工藤さん澁谷さんと帰ってモルツビール、鬼殺し、ウイスキー、柿ピー、白菜漬物、ユニファイ。工藤さんがアコギ片手に、"unify my heart"、プレマヘルの名曲群、生まれて初めて作ったというモーツアルトぽい曲、中学生の頃農協のために作ったという「大きなイチョウの木の下で」とかいう社歌などを解説を交えて披露してくれ、全てが面白すぎる時が暴走してゆく。夜も白々と明け始めた頃、工藤さんと僕は完全に大トラと化しており、完璧に帰り支度を済ませた澁谷さんを訳の分からない情熱で引き止めて遂に滞在を一日延ばさせることに成功してしまったのであった。