テニスコーツ@Mandala-2

全体的にトーンは暗く、冷たいエーテル状のものが蒼い絨毯のように底流に流れていた。常に楽曲に纏わりついて離れない成田さんのギターはサイケデリックな蛭のようで、虎視眈々と狙いを定めて巨大な音を出したのは2回程だったが、その瞬間、巨大な昇り龍が会場に出現したのであった。目線がアンプ上のコード譜と中空の間だけを行き来するビル・ウェルズは寡黙な大鬼のようで、そのベースプレイはさやさんの指示により極力ルート音を避けたものになっており、おかげで彼はメロディックな人だということが分かった。植野さんは、横でとぐろを巻く昇り龍と不動の大鬼を見上げておののきながらも、丹念に曲の骨格を浮き彫りにしてゆく小鬼のよう。そんな果てしなき百鬼夜行のような異空間を、さやさんは頭に鈍い鉛が詰まったように夏バテしながらも生々しい歌で統括してゆく。本番前、マンダラの入口でメンバー4人で練習していた時、植野さんは「何でこのメンツでやってるんだろう?」と何度も笑いそうになったらしいのだけど、既存の曲の中でそんなあり得ない組み合わせを即興的にぶつけてあり得ない音楽を作っていくという、永遠に自己充足に辿りつかないような場所に居るからこそ、何があっても彼らはやり続けていられるのかもしれない、と思った。

ライブ後、武蔵小金井の裏道に「ちょっとよってこう家」という異常なネーミングの立ち呑み屋を発見。つぼ八系列らしいが料理人の腕が良いようで、あまりのコストパフォーマンスの良さに唖然とする。通い詰めて全メニュー制覇しようと心に決める。